男の更年期かと思った。ずっと鬱だったのか。後厄から5年間。
何もかもつまらなかった。
2001年、でかいソフトウェア会社の役員になった。そこで燃え尽きたのかもしれない。
1年間口説き続けられ、根負けして移った。一介の部長が役員になった。でき過ぎだった。
しかし、器は出来ていなかったし、能力がついて行かなかった。
負けたと思った。
引き抜いたオヤジが所得税法違反で逮捕された。ストックオプションの脱税容疑だ。
いい口実ができたので、すぐに逃げ出した。
三流の、斜陽の会社に逃げた。移籍は業界紙に出た。すげーな、有名人みたいだと思った。
何もしないで過ごした。くだらなかった。どんどん自尊心が壊れた。
中学入試からずーっと闘いだった。結論がこんな三流外資か。
5年腐り続けた。腐っていることも許せなかった。
腐るのも5年が限界だ。焦燥感で溢れかえった。
行き場を失い、開き直った。
エージェントの話を真剣に聞いた。
ブランドのくちがあった。出会いだ。一期一会だと思った。
外人のインタビューもうまくごまかした。
ご縁があった。
結構がんばれるもんだ。
きっかけはカメラかもしれない。
仕事仲間の話からふっと思い出した写真という10代のころの趣味だった。
Webで見た小さな日本製のデジタルLeica。
D-LUX3は完璧なデザインだ。
買った。 日本製のLeicaだ。パナにすれば安いのに。
ブランドが好きなんだと、再確認した。
会社もブランドでなければならないのだと再確認した。見栄っ張りは子供のころからだ。
自尊心が満たされた2007年夏、NY本社へ行った。
どうしても行きたいところがあった。あの敗北感に押し潰されていた渦中の日、帰宅して見た衝撃のTV映像。
なぜか行かなければならない気持ちだった。
WTC跡地に立った。
その場では何も感じなかった。そんなものかと納得する。
NYを7時間歩いた。
カメラのネックストラップ周辺が塩を吹いた。
この街がすごく好きになった。
光と影の街だ。